この物語はMOMOTOKYO編集部が制作したフィクションです。実在の人物・団体・体験談とは関係ありません。

午前2時を少し過ぎた頃、店を出た。

彼から届いていたのは、午後11時47分の「先に寝るね」だった。

おつかれ、の一言を返してから、既読がつかない画面を閉じる。眠っているだけだと分かっている。それでも、今日も一日のどこにも彼がいなかったような気がした。

私が働いている時間に、彼は眠る。

彼が目を覚ます頃、私はカーテンを閉める。

嫌いになったわけじゃない。ただ、好きでいる時間まで、少しずつずれてしまった。

夜明け前の東京の駅でスマートフォンを確認する女性の手元
眠っていると分かっている。それでも、返事のない画面だけが少し遠く見えた。※イメージ

同じ東京にいるのに、会えない

彼と付き合って、九か月になる。

彼は朝8時前に家を出て、夕方まで働く。私は夕方に目を覚まし、日が落ちる頃に支度を始める。週末になれば会えると思っていたけれど、土曜日の夜は私がいちばん忙しく、日曜日の昼は彼が友人と過ごすこともあった。

TWO DIFFERENT DAYS

時間8:00仕事へ眠りにつく17:30仕事を終える支度を始める2:00眠っている仕事を終える

付き合い始めた頃は、それでも毎日話していた。

彼は昼休みに、会社の近くで食べたランチの写真を送ってくれた。私は休憩中に、店の裏口から見えた月の写真を返した。会話は何時間も離れていたけれど、不思議と一緒に一日を過ごしている感じがした。

でも、いつからか写真は減った。

「忙しい?」と聞けば、「いつも通り」と返ってくる。私も「大丈夫」と答えた。本当は大丈夫ではなかったけれど、何が寂しいのか、自分でもうまく説明できなかった。

四時間眠って、会いに行った日

日曜日の午後2時。三週間ぶりに会える日だった。

仕事から帰ったのは午前4時半。シャワーを浴び、髪を乾かして、アラームを午前10時に合わせた。けれど、眠りにつけたのは空が明るくなってからだった。

待ち合わせのカフェへ着いたとき、彼はもう窓際に座っていた。

「疲れてる?」

「少しだけ。でも会いたかったから」

彼は笑ったあと、何気ない声で言った。

「夜の仕事なんだから、仕方ないよね」

責めるつもりではなかったのだと思う。

それでも、その言葉を聞いた瞬間、眠らずに会いに来たことも、土曜日の予定を何度も断ったことも、全部が私だけの事情に変わった気がした。

東京のカフェで向かい合う二人のコーヒーカップと手元
言葉の意味より先に、その言葉で一人になった気がした。※イメージ

それからの会話を、あまり覚えていない。

新しくできた店の話。共通の友人の話。次の連休の話。どれも間違っていないのに、私たちの間に置かれた二つのコーヒーカップだけが、妙に遠かった。

寂しかったのは、返信が遅いからじゃない

駅へ向かう途中、彼が「次はいつ会える?」と聞いた。

いつもの私なら、シフトを確認してから連絡すると答えていた。でも、その日は足を止めた。

「連絡が少ないから寂しいんじゃない」

自分の声が思ったより小さくて、もう一度言い直した。

「私の一日が、あなたのいない時間にしかないみたいで寂しい」

彼はすぐには答えなかった。

電車が高架を通り、短い影が私たちの上を横切った。

「何を送っても、寝てるかなって思ってた」

彼は少し間を置いてから続けた。

「起こしたくなかったし、返事を求めてるみたいになるのも嫌だった。何をしたら正解なのか、分からなくなってた」

私たちは、同じことを心配して、反対側から黙っていた。

正解ではなく、二人だけの合図を決めた

その日、私たちは三つだけ決めた。

  1. 01帰宅したら、返信不要の「帰ったよ」を送る

    返事がなくても、一日が無事に終わったことだけを共有する。

  2. 02会えない週は、十五分だけ声を聞く

    長電話を約束せず、どちらかが疲れていたら終わっていい。

  3. 03予定を断るとき、次に会える候補も伝える

    断られた事実だけが残らないようにする。

恋人なら毎日連絡するべき、週末は一緒に過ごすべき。そういう普通に合わせるのではなく、二人が不安にならない最低限を探した。

約束は、思っていたより小さかった。

でも、小さいから続けられるのかもしれないと思った。

午前8時12分

家に着いて、メイクを落とし、カーテンを閉めた。

ベッドへ入った頃、スマートフォンが一度だけ光った。

彼からだった。

「おはよう。帰ったよ、見た。返事はいらないから、おやすみ」

私は画面を伏せた。

次に会える日は、まだ決まっていない。

生活時間も変わっていない。

それでも、その朝は、同じ一日の中に二人がいる気がした。


物語から、少しだけ持ち帰ること

連絡の回数や会う頻度に、すべての二人へ当てはまる正解はありません。大切なのは、どちらか一人が眠る時間や仕事、自分の生活を削り続けなければ保てない関係にしないことです。

話すときの言葉

「もっと連絡して」ではなく、
「返事がなくても、無事に帰ったことが分かると安心する」

「どうして会えないの」ではなく、
「今月、二人とも無理をしないで会える日はある?」

相手の働き方を見下す、睡眠を削ることを当然とする、返信を監視する。そんな関係まで「生活時間が違うから」と我慢する必要はありません。歩み寄りは、片方だけが小さくなることではないからです。

会える時間が少なくても、あなたの一日までなかったことにしなくていい。